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定年退職した親を扶養家族にするかどうかを考えている方もおられるのではないでしょうか。
扶養には、税金の負担を軽くすることができる所得税の扶養と健康保険料を納める必要がなくなる健康保険料の扶養の2種類あります。
親の収入や年齢など、それぞれ扶養控除が適用される条件が異なるので確認が必要です。
今回は親を扶養に入れるメリット・デメリットを、扶養に入れる際の条件や注意点などと合わせてお話しします。
所得税と健康保険の扶養とは?
扶養には「所得税の扶養」と「健康保険料の扶養」の2種類あり、経済的な負担を軽くするための制度です。
それぞれについて解説します。
所得税における扶養
扶養家族がいる場合、扶養控除を利用することで所得税の控除を受けることができ、税金の負担が軽減されます。親を扶養に入れることで、扶養控除が受けられます。
健康保険における扶養
親が健康保険に加入している方の扶養に入ることで、親は自分で保険料を払わなくても、被保険者の保険に加入することができます。このとき、被扶養者が増えても扶養者の保険料は変わりません。医療費の自己負担も健康保険の適用範囲内となるため、医療費の面でも安心です。
親を扶養に入れる条件
親を扶養に入れるには、年収や年齢など、いくつかの条件を満たす必要があります。
それぞれの扶養を受けるための条件を解説します。
所得税の扶養条件
まず、親が扶養控除の対象となるには、以下の条件を満たす必要があります。
- 納税者と「生計を一にしている」こと
親と同居している場合は、一般的に生計を一つにしていると認められる場合が多く、別居している場合は、定期的に生活費や療養費等の送金が行われていれば認められる可能性があります。 - 親の年間合計所得金額が48万円以下であること
これは、税法上の「所得」の額を基準にしています。
給与収入だけの親の場合、年収103万円以下であれば所得48万円以下となります。
年金受給者の場合は、65歳未満で年金収入が108万円以下、65歳以上であれば158万円以下が目安です。
給与のみの場合は給与収入
なお、親が個人事業主やフリーランスであっても、所得要件を満たせば扶養控除を受けることができます。
ただし、親が事業専従者として給与を受け取っている場合は、扶養控除の対象にはなりません。
健康保険の扶養条件
健康保険の扶養には、親の年齢が75歳未満という制限があります。扶養条件の設定は加入している健康保険の種類によって異なりますが、親の年収が130万円未満(60歳以上や障害者の場合は180万円未満)と設定しているところが多いです。
また親が扶養者と同居している場合は、親の収入が扶養者の半分未満であること、別居している場合は、親の収入が扶養者からの仕送り額よりも少ないことが求められることなどがあります。
これらの条件は、加入している健康保険の種類(協会けんぽ、組合健保、共済組合など)によって細かな規定が異なることがあります。詳細は各保険会社に確認しましょう。
親を扶養に入れるメリット
親を扶養に入れると税金や保険料の負担を減らすことができます。
ここからは具体的なメリットを説明します。
所得税でのメリット
親を扶養に入れることで、所得税の扶養控除を受けることができます。
扶養控除には「一般扶養控除」と「老人扶養控除」があり、親の年齢や同居の有無によって控除額が異なります(表1)。
会社員なら年末調整の際に「扶養控除等(異動)申告書」を職場に提出することで適用されます。
一方、自営業の場合は確定申告で扶養控除を申請する必要があります。
表1:所得税の扶養による控除の金額
区分 | 控除額 | |
---|---|---|
一般の控除対象扶養親族* | 38万円 | |
老人扶養親族 (70歳以上) |
同居老親等以外の者 | 48万円 |
同居老親** | 58万円 |
*納税者から生活費に充てるための支払いを受けている30歳以上70歳未満の方
**病気の治療で1年以上入院している場合でも同居とみなされます。ただし、老人ホーム等へ入所している場合には、同居とは認められないことがあります。
参考:国税庁サイト 扶養控除
また兄弟姉妹複数人で親を扶養することはできません。
扶養控除が受けられるのは1人の親に対して1人のみです。
健康保険のメリット
親が健康保険の扶養に入って被扶養者になれば、親は保険料の負担なく健康保険の対象となります。
ただし75歳以上になると「後期高齢者医療制度」に移行するため、健康保険の扶養から外れ、親自身で後期高齢者医療制度の保険料を支払う必要があります。
親は子どもから支援を受けやすくなる
高齢になると、身体能力の衰えなどにより、ケガや病気のリスクが高くなり、働けなくなることもあります。そのような親にとって、子どもが近くにいることや、経済的なサポートがあると安心して生活がしやすくなります。
親を扶養に入れるデメリット
親を扶養に入れることには多くのメリットがありますが、その一方で注意しなければならないデメリットもあります。
どのような点がデメリットになるのかを確認しておきましょう。
所得税でのデメリット
親を扶養に入れると、高額療養費制度の区分に影響を受ける可能性があります。高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で1か月に支払った医療費が自己負担上限額を超えた場合に、その超えた分の金額が支給される制度です。
1か月の医療費の自己負担上限額は、親の年齢(70歳以上かどうか)、世帯ごとの所得区分によって決まります。(表3)
表3:高額療養費医療制度<70歳以上の方の自己負担の上限額>
適用区分 | 1か月の上限負担額 | ||
---|---|---|---|
外来 (個人ごと) |
外来+入院 (世帯ごと) |
||
現役並み | 年収約1,160万円~ 標報83万円以上/課税所得690万円以上 |
252,600円+(医療費-842,000)×1% | |
年収約770万円~約1,160万円 標報53万円以上/課税所得380万円以上 |
167,400円+(医療費-558,000)×1% | ||
年収約370万円~約770万円 標報28万円以上/課税所得145万円以上 |
80,100円+(医療費-267,000)×1% | ||
一般 年収156万~約370万円 標報26万円以下 課税所得145万円未満等 |
18,000円 (年14万4千円) |
57,600円 | |
住民税 非課税等 |
Ⅱ 住民税非課税世帯 | 8,000円 | 24,600円 |
Ⅰ 住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下など) |
15,000円 |
*注 1つの医療機関等での自己負担(院外処方代を含みます。)では上限額を超えないときでも、同じ月の別の医療機関等での自己負担を合算することができます。この合算額が上限額を超えれば、高額療養費の支給対象となります。
親を扶養に入れている場合、扶養者つまり子どもの所得で区分わけされます。
例えば扶養者の年収が450万円の場合を例にみてみましょう。
医療費が100万円のとき、窓口の負担は3割なので約30万円かかります。
表3に当てはめてみると、自己負担の上限額は80,100円+(100万円-267,000円)×1% = 87,430円となります。
扶養者(子ども)の所得が高い場合、親を扶養に入れることで世帯の所得区分が上がり、親の医療費の自己負担額が増える可能性があります。
そのため、扶養に入れる前に自己負担額の変化を確認しておくことが重要です。
健康保険のデメリット
介護保険料は親の住んでいる自治体や世帯の住民税課税状況に応じて計算されるため、65歳以上の親を扶養に入れることで、扶養者(子ども)の所得状況により世帯全体が住民税課税世帯となった場合、親の分の介護保険料が増加する場合があります。
また、住民税課税世帯に該当すると、介護老人福祉施設や介護老人保健施設を利用する際に 「介護保険負担限度額認定」が適用されず、施設サービスの食費や居住費を全額自己負担する必要があります。
年金収入や預金額が一定額以下であれば、世帯全員が住民税非課税世帯である場合、負担軽減制度を利用することで介護サービスの費用を軽減できますが、親を扶養に入れた結果、世帯が住民税課税世帯に該当すると、この負担軽減制度を利用できなくなる可能性があります。
そのため、扶養に入れる前に世帯の課税状況や負担額の変化を確認することが重要です。
表4-1は介護サービスの利用負担段階と対象者、表4-2は介護サービス1か月利用時にかかる食費と居住費の目安を部屋のタイプ別に表したものです。
表4-1:介護サービスの利用負担段階と対象者
利用者 負担段階 |
主な対象者 | ※非課税年金も含む | |
---|---|---|---|
預貯金額 (夫婦の場合)(※) |
|||
第1段階 | ・生活保護受給者 | 要件なし | |
世帯(世帯を分離している配偶者を含む以下同じ。)全員が市町村民税非課税である老齢福祉年金受給者 | 1,000万円 (2,000万円)以下 |
||
第2段階 | 世帯全員が 市町村民税 非課税 |
年金収入金額(※)+合計所得金額が80万円以下 | 650万円 (1,650万円)以下 |
第3段階① | 年金収入金額(※)+合計所得金額が80万円超~120万円以下 | 550万円 (1,550万円)以下 |
|
第3段階② | 年金収入金額(※)+合計所得金額が120万円超 | 500万円 (1,500万円)以下 |
表4-2:介護サービス1か月利用時にかかる食費と居住費の目安<部屋のタイプ別>
基準 費用額 (月額) |
負担限度額 (月額) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
第1段階 | 第2段階 | 第3段階① | 第3段階② | ||||
食費 | 44,000円 | 9,000円 | 12,000円 | 20,000円 | 41,000円 | ||
移住費 | 多 床 室 | 特養等 | 27,000円 | 0円 | 13,000円 | 13,000円 | 13,000円 |
老健・ 医療院等 | 13,000円 | 0円 | 13,000円 | 13,000円 | 13,000円 | ||
従 来 型 | 特養等 | 37,000円 | 11,000円 | 14,000円 | 26,000円 | 26,000円 | |
老健・ 医療院等 | 52,000円 | 17,000円 | 17,000円 | 41,000円 | 41,000円 | ||
ユニット型 | 多床室 | 52,000円 | 17,000円 | 17,000円 | 41,000円 | 41,000円 | |
ユニット型 | 個室 | 62,000円 | 26,000円 | 26,000円 | 41,000円 | 41,000円 |
親の就業状況に影響が出る可能性がある
所得税や健康保険の扶養に入れるには、親の年間所得に一定の制限があるため、扶養の条件に合うように、年金の受給状況を確認したり、労働時間や収入を調整したりする必要が出てきます。また、まだ働く意欲がある親にとっては、制限があると苦痛に感じるかもしれません。
親を扶養に入れる際は経済的なメリットとデメリットを総合的に検討することが重要です。
親を扶養に入れる手続きと注意点
親を「所得税の扶養」と「健康保険の扶養」に入れる際は別々に手続きが必要です。
どちらか一方だけの扶養に入れることも可能です。手続きの方法とともに、注意点についてもここで確認しましょう。
所得税の手続き
親を所得税の扶養に入れる場合は、扶養者が会社員(給与所得者)であれば勤務先で年末調整の手続きが必要です。
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に、必要事項を記入して提出します。
年末調整の際に扶養控除の申請をし忘れた場合や、途中で親を扶養に入れた場合などは、翌年の確定申告で扶養控除を申請することができます。
自営業者など確定申告が必要な場合は、扶養親族として申請することで控除を受けられます。
所得税での注意点
年金と給与の2つの収入がある親を所得税の扶養に入れるとき、所得金額調整控除が適用される場合があります。具体的な控除額は次の式1で算出できます。
式1:
(給与所得控除後の給与の金額*+公的年金等控除後の雑所得の金額*)-100,000円=控除額
*給与所得控除後の給与などの金額と公的年金などにかかる雑所得の金額が100,000円を超える場合はどちらも100,000円で計算されます。
この調整により、給与と年金の両方を受け取る親の課税所得を減額し、所得税負担を軽減することができます。
健康保険の手続き
親を健康保険上の扶養に入れる場合は、扶養者が勤務先の担当部署へ「被扶養者(異動)届」を提出します。
提出期限はありませんが、手続きの際に親の収入や仕送り額などを確認する書類、住民票など続柄が確認できる書類が必要です。
親を健康保険の扶養に入れたら、親がこれまで加入していた国民健康保険の解約手続きをします。
健康保険での注意点
75歳以上になると健康保険の扶養対象者からは外れて、後期高齢者医療制度へ加入し、親自身が保険料を支払わなければなりません。
75歳未満まで親を扶養に入れていた場合も、75歳になったら扶養を外れることになります。
まとめ
親を扶養に入れると所得税の控除が受けられる、健康保険料の負担がなくなるというメリットがあります。その一方で、医療費や介護保険料の負担が大きくなるというデメリットもあります。
親を扶養に入れる際は、メリットとデメリットを考慮した上で、検討することが大切です。
今回の記事では扶養の説明から手続きの仕方や注意点について解説しました。
親を扶養に入れるという場面になった場合の参考になればと思います。